
熱海は希有な街だ。年間15回〜17回も花火を揚げてくれる街なのだ。夏に7回、秋から年末にかけて6回、春に3回……、若干前後する年(今年は17回、来年2007年度は15回)もあったが、だいたいそんな感じ。 昨年までの公称打上発数は夏が5,000発、夏以外は2,000発(一部では3,000発とも)というアナウンスがされていた。余談だが、公称発数は大会評価を示すバロメーターにはならない。あくまでもそうアナウンスされていたというだけの意味で数を記したもので、それ以外の他意は無いが夏場の物量はそれはそれは素晴らしいものだった。 熱海は温泉街ゆえ、花火打上は宿泊客が夕食を済ませ終わった午後8時20分から午後9時までの間で行われている。開催日は、夏季を除けばもっぱら日曜日(一部祝日)。金曜や土曜は賑わうので、日曜の宿泊客&日帰り客拡大を見込んでの開催は言うまでもないだろう。 至近距離に見える堤防上に、ところ狭しと並ぶ花火筒は壮観(今となっては懐かしい)だった。一般的には90分〜120分を要して打ち揚げる量を、わずか30分〜40分で揚げきってしまう訳だから、その内容の濃さ(間断なく打ち揚がる連続掃射)に誰もがシビれたものだった。 熱海の最大の魅力はその花火までの近さにあった。ほとんど頭上といっても大袈裟ではないくらいの近さ。だから5号玉でも迫力は2割増だったし、7号玉が揚がった時などは、体感的に尺玉の感動に匹敵する迫力があった。 後半に揚がるデジタルスターマイン(音楽花火の時期もあった)は内容が凝っていて、毎回テーマが設定され季節をイメージした創作花火(例えばX'mas大会では、花火でクリスマスツリーを表現するなど)がワイド掃射で披露された。 メイン会場内から観覧している人々は、誰もが首が痛くなるほど上を向き、次から次へと降り注いでくる花火を存分に楽しみ、その歓声はいい意味でうるさいほど歓喜に満ち溢れていた。そして「花火の街 熱海」を全国に知らしめた要因は前述した内容に加え、フィナーレに揚がる大空中ナイアガラの存在なくしては語れない。 長い尾を引く真っ白な眩しい花火(銀冠菊)を、ほぼ横一列の8カ所〜10カ所(その時々によって変更)から一斉連続掃射する熱海の大空中ナイアガラ。その幅は最大1,500メートルにも達すると云われ、その壮観さと美しさは観るもの総ての心を捉えて離さない絶大的なパワーがあった。 熱海の大空中ナイアガラは本当に別格だった。 熱海の花火はいい、特に大空中ナイアガラは素晴らしい、という評判がたち始めると、全国各地の大会で「大空中ナイアガラ」という名のプログラムが出現し始めた。僕はさまざまな大会で大空中ナイアガラなる花火を観覧したが、熱海で揚がる本家大空中ナイアガラを凌ぐものは未だかつて観たことが無い。 あの玉、あのピッチ、あの距離、あの横一列のワイド感、あのタイミング、あの最後の最後にパチンと弾ける競り上がり……。イケブンさまと丸玉屋小勝煙火店さまが打ち揚げていたあの大空中ナイアガラは、まさに熱海花火の「財産」であり「誇り」であり、他が真似できない熱海だけのアイデンティティの象徴そのものであった。 花火観覧の妨げになるからと、メイン会場内は最小レベルまで照明を落とし、ホテル群は看板照明を消し、ファミリーレストランまでもが店内照明を落とすという徹底した気配りの中、あの名MCさんのカウントダウンが会場内に木霊する。3カ所や4カ所から一斉に大きな丸い花火が揚がる。観客は驚き、そして歓び、1分も経たない間にその世界へと吸い込まれていく。そして、ラストの大空中ナイアガラでさらに感動を一新する。 あっという間の30分。だけど永遠の記憶として心に刻まれるほど強烈な30分だった。 口コミ以上に強力な宣伝はこの世に存在しない。世間にはテレビCMを筆頭にさまざまな広告媒体が存在するが、人から人へナマの言葉で伝播する「クチコミ」には到底かなわない。熱海を観た人々は、純粋な気持ちでその時の感動を熱き言葉と瞳で人々に伝える。そのクチコミの積み重ねが、現在の熱海花火のネームバリューをここまで大きく築き上げ支えてきたのだ。 ところが2006年4月23日、今年の春季大会第1回目に異変が起こった。 異変とは、花火打上位置変更(従来よりもだいぶ遠くなったのです)と、担当煙火会社の一方が、丸玉屋小勝煙火店さまではなくなったこと。 旧観覧記にも書いたが、打上位置変更はやむを得ないこととして当時僕は受け止めた。主催者側の打上位置変更に関する公式発表は次の通り。 <打上げ会場の一部変更について> これまでの打上げ会場は海岸線との距離が近いため、風向きなどにより事故がおきる危険性も高く、 お客様の安全を第一に考え、奥の岸壁および堤防からの打上げとさせて頂きます。 何卒、ご了承の程よろしくお願い申し上げます。(公式HPより抜粋) こう云われてしまうと、打上位置変更は仕方のないことだと思うしかない。事実、もう数年前のことだが、向かい風のときに危険を感じた時が一度だけだがあった。万一、怪我人などを出してしまったら、開催そのものが危ぶまれてしまう。 この日(打上位置変更変更第1回目※2006.4.23)の打上はイケブンさまだった。実際、遠くなってしまって確かに花火の迫力はスポイルされてしまったが、センター位置からの尺玉10発打ち揚げ(以前はメイン会場から見て右奥だった)や、斜め45度に花火を打つなど、昨年までは見られなかったプログラムが打ち揚がり、発数の少ない春季大会だったことも加味して、差し引きのトータル的には擁護的見解(安全面配慮)も含めて「進化」と僕は書いた。冠プログラムの大空中ナイアガラに懸念(セッティングがL字)を示したが、新規打上場での試行段階のもので、今後改善されていくのではないかとポジティブに捉えた。 春季2回目の5月21日は、新規参入の煙火店による打ち揚げだった。開催中、?と思ったが、新規参入初回だったこともあり次回へと期待を繋ぎ、春季3回目の6月18日(イケブンさま)では4月23日と同様の印象を受けたが、打上発数の多い夏季大会時には今までのモヤモヤをパッと晴らしてくれるだろう……、そう思って疑わなかった。それが正直な気持ちであり、願いだった。 今年度、夏季大会は8回開催された。うち僕が観覧したのは、8月9日/8月20日/8月23日/8月27日の計4回。7月28日は行ったのだが、濃霧のため花火観覧はできなかった。7月25日/7月30日/8月5日の3大会は観覧していない。なので2006夏季あたみ海上花火大会を語るのは、4回観覧しての総合的な感想だ。 残念でたまらないが、結論から言えば旧観覧記で書いた「進化」は撤回せざるを得ない内容だった。 夏場4回観覧(秋季の9月18日も)した限りでは、花火との距離が遠くなったことによる対策や工夫を、無念だが感じることができなかったのだ。 色々と調べてみると、打上位置変更の経緯はかなり複雑なようだ。主催者側の中には、号数を若干落として以前の位置に戻そうと主張(頑張って欲しい)されてる方も居られるようだが、どうやら保安距離の問題だけではないらしい。 一熱海花火ファンとしての最大の懸念は、いままで数十年かけて培ってきた評判を下げて欲しくないという点に尽きる。クチコミは絶大な威力を持つと先に書いた。それはいい時だけではなく、悪い時も同様に絶大な威力を持って伝播していく。いや、ネガティブな問題の方が浸透は早いのかもしれない。 僕の個人的意見は、打上位置を元に戻せないのなら、年間開催数を半減させてでも、1回あたりの大会規模をパワーアップさせるべきだと思う。今まで積み上げてきたせっかくの評価を崩すと、肝心な集客そのものに影響が出始めないとも限らない。 僕の熱海観覧キャリアは、2桁年そして3桁回を超えている。僕は熱海の花火と熱海の街が大好きだ。以前は熱海市内に、小さな部屋を賃貸してみようかと真剣に考えていた時期があったくらいだ。 何故、何度も熱海花火に通うのか、それはただ熱海の花火が素晴らしいから。内容や流れが分かっていても、不思議と熱海の花火は飽きなかった。ここに来ればいつも心がリセットできて、美味しいもの(熱海は名店多数)でも食べに行こうという気にさせてくれた。 時代は動いている。その時々によりさまざまな形となり、また変化していくのだろう。今回のことはとても大きな変化だが、それでも僕は熱海観覧から離れる気はない。惚れ込んだら一生だ。いい時もあれば悪い時もある。開催される限り、僕が動ける限り、今後も熱海を観続けていこうと思う。だけど、熱海の観覧記は毎回書かないかもしれない。伝えたいことがあった時には真っ先に……。約束します。
※添付した映像は、2006.8.27のオープニングの一部。 ※2006.10.22観覧記公開 |