2006調布市花火大会
2006.7.23開催分 ※東京都調布市


 凄い。何が凄いのかって、大会運営スタッフが凄いのだ。この観覧記を書いているのが9月7日なので、この調布以降も様々な大会を観覧してきている訳だが、調布ほど運営の素晴らしさが光った大会はなかった。

 調布市花火大会は、荒天等の際の順延日が設定されていない。即ち7/23が悪天で開催されない場合は、順延されず中止となる。なので、僕の中での好天祈願は半端なものではなかった。この時点で、梅雨がいまだ明けないのだ。当日は何とか雨天を免れ、めでたく開催決定の運びとなったが、ちょいヤバそうな曇り空……。
 布田会場到着は午後1時。ご覧の写真のように、既にベストポジションエリアはきれいに場所取りされている。だがまだところどころに小さな空きスペースが残っている。さっそく僕なりの観覧場所確保に取りかかった。

 禁煙……、制限……、固定禁止……。 何やら聞こえるが、場所取りが最優先課題だった。

 場所を確保する際のコツは、開催中の状況を的確にシュミレーションするということだ。というのも、午後1時の状態と花火開催中、或は花火直前では、まるで状況が違ってくるからだ。現段階で一見良さそうに思える場所でも「開催中は目の前が通路になってしまってよく観ることができなかった」なんてことがあるからだ。また、大きな面積で取られたシートは、多人数のグループ客だと予測できる。大きなテーブルと巨大クーラーボックスが搬入され、やんややんやの大宴会に発展する可能性もある。なので、巨大シート横は避けるのが賢明だ。あとはトイレ近くも避けなければならない。長蛇の列と、漂う臭いに悩まされてしまう……。

 上記のような点をふまえながら無事観覧場所を確保し、食事休憩をしに布田会場を出ようとした時だった。会場に入った時から、メガホンで注意を促していた大会スタッフさんの声が突然鮮明に聞こえてきた。

「転倒防止のため、ペグなどでシートを固定しないでください。」
「会場内は終日禁煙です。事故防止のため、全面禁煙にご協力ください。」
「状況を判断し、入場制限をかける予定です。入場制限がかかると、場所を確保していたとしても一切会場内には入ることができなくなります。ご注意ください。」

 と言っていた。ほんのちょっぴり青ざめる。
 シート固定禁止は知っていた。僕が普段使用しているペグはU字タイプの物で、しっかりと地面にくい込むため、足を引っ掛け転倒することはないと断言できるのだが、ルールはルール。アナウンスされているように、シート上に荷物を置いただけにしてある。問題は禁煙と入場制限。初耳だった。それも大会中は禁煙、ではない。終日禁煙と言っている。っていうことは、午後1時過ぎのこの時間も禁煙ということになる。正直焦った。僕は一日一箱ペースの喫煙者なのだ。さっそく運営スタッフさんに声を掛けさせて頂いた。

「すみません、禁煙ということなのですが、煙草を吸ってもいいエリアというのはあるのですか? いわゆる喫煙所みたいな、どこかの片隅というか……」と僕。
「ないんですよ〜」と笑顔のスタッフさん。
「では、どこだったら吸ってもいいのでしょうか?」と引きつり顔の僕。
「会場を出て吸ってもらうしかないんですけど」との回答だった。その後のやりとりは次のとおり。
「そうですか、分かりました。ところで入場制限っておっしゃってましたが、どういったことなのでしょうか?」
「会場が満員になった段階で、それ以降の入場を制限致します。入場制限がかかったあとは、順次後方の河川敷に誘導いたします。入場制限後は布田会場内に入れませんのでご注意ください」
「そうですか。それは予定としては何時ごろのことなんでしょうか?」
「状況で判断しますので正確なことは言えませんが、早くて5時にはかかるかもしれません」
「5時ですか」
「ま、状況次第ですけど……」
「……そうですか、よく分かりました」
 会釈をして立ち去ったが、やはり顔は引きつっていたと思う。終日禁煙に入場制限……。調査不足だったかもしれないが、まったくの初耳だった。その後、僕はさっさと食事を済ませ、できるだけゆっくりと煙草を吸い、早々と午後3時には再び会場内に戻った。まさかこの時間で入れないなんてことはないと思うが、運営スタッフさんの顔は、入場者の安全を確保するためには徹底するといった気迫が感じられた。万一、思わぬ集客があり、本当に入場制限などがかかったらたまったものではない、と怖じ気づいたのだ。我慢できないほどの暑さではなかったので、おとなしく本を読んでの時間つぶしを決め込んだ。

 僕はこの後、「周知徹底」というのは本当に凄いことなのだと、改めて実感することとなる。

 布田会場に人が入ってくる(時間が経つ)につれ、あのメガホンスタッフさんの人数も次第に増強されていった。またニクイことに、その姿勢が絶妙に上手い。とにかく落ち着いた優しい声音で、話しかけるようにアナウンスを続けているのだ。それも等間隔で、行進するように何周も歩き続けている。これだけ繰り返し言われれば、知らなかったとは誰一人言えないほどの周知徹底ぶりだった。布田会場の全観覧者に、全面終日禁煙と会場内から出ないようにしようという意識が、見事なまでに定着・浸透してしまった。
 午後5時。煙草を吸いたくなって周囲を見回してみたが、誰一人として吸ってる人を見かけない。そりゃそうだ、あれだけ何度も(それも低姿勢の優しい声で)言われたら吸えるわけない。もう男らしく諦めた。大会終了まで「にわか禁煙者」になるのだと……。

「ご協力お願いしま〜す」
 男というものは、どうしてこう若い女性の声にいちいち反応してしまうのだろうか。男の声なら絶対に本から意識を逸らさなかった自信があるのにぃ……。ちらと見ると、可愛らしい女性二人組が、アクリル箱を首から吊るして花火募金を募っていた。辺りを見回すと、何組もの募金ガールたちが布田会場内を練り歩いている。早々と入口で募金は済ませていたのだが、笑顔に釣られて再度させてもらった。
 真面目に書くと、このような回収型の募金方法はとてもいいと思う。僕がそうであるように、観覧者たちには、運営スタッフの熱意が「周知徹底アナウンス効果」で充分伝わっている。そこに笑顔の募金ガール(またはイケメン男子)たちが来れば、自然と協力したくなるものだ。実際、かなりの確率で周囲の人たちは募金に応じていたのだ。

 一番感心したことは、トイレの列に「トイレ誘導スタッフ」を配置していたことだった。

 十数年間各地の花火大会を観覧しているが、専用のトイレ誘導スタッフを配置している大会は記憶にない。(調布も昨年までは配置されていなかった)これは素晴らしいアイディアだと実感した。観覧者にとっては、とても有り難いサービスだと思う。
「この列は扉がない男性専用のトイレです。扉付のトイレを利用される男性の方はあちらへお廻りください」
「ここからの待ち時間は約15分です」などなど……。
 誤って男性の列に並んでいる女性には、近くまで行って女性列をそっと案内していた。なんて素晴らしい光景なのだろうか。僕が利用したトイレの一角には、3人のスタッフさんが配置されていたが、どの人もテキパキと誘導し、こんなにも理路整然としたトイレ待ちは未だかつて経験したことがない。

 よく考えられた大会だなぁ、打ち合わせは大変だっただろうなぁ、と思う。観覧客たちは皆、穏やかな顔をしていた。すべての誘導が的確だから、観客たちは安心感に満たされているのだ。一年に一度の待ちに待った花火大会、この穏やかな平和な待ち時間こそが、夜空に輝く花火をよりいっそう美しくするのだと思う。

「禁煙ですよーっ」「そこの人、禁煙ですよーっ」
 突然周囲からそんな声があがった。そっと盗み見ると、男性が煙草をもみ消しているところだった。周知徹底恐るべし。注意したのはスタッフさんではなく、観客なのだ。以降、最後まで注意の声は聞かれなかった。喫煙者は皆、ルールを厳守したということか……。

 打上担当煙火会社は、確かな腕を誇る丸玉屋小勝煙火店さんだ。種類を揃えて揚げる割物早打ちは、どの場面でも素晴らしく爽快だった。今年が最後と噂される尺玉100連発も、豪華で美しく見事な内容だった。開催中、風が弱く煙が掃ききれない場面もあったが、終始堂々とした素晴らしい花火の数々だった。これだから調布は欠席できない。

 終了後、会場を後にし、混み合う道を横に逸れて暫く歩いた。小さな公園を見つけ、ベンチに座ってゆっくりと煙草を吸う。約6時間振りのタバコ。運営スタッフさんたちの、大会への熱き想いを知った喜びが加味されたからか、やけに煙草が旨かった。

 注:現在はタバコを辞めており吸っておりません。


大スターマイン「輪菊」




 ※2006.9.8観覧記公開 ※2016.1.18 動画再アップ+加筆修正